Round South America
 Maracaibo Venezuela



コロンビアから国境を越えてベネズエラへと入国した僕は西部のマラカイボという都市に滞在した後、そのマラカイボから更に東の街へと進もうとバスターミナルでバスに乗車したところ、何というかもう、とにかくすさまじく暑い。なぜ暑いかというと、バスにエアコンが付いていないからである。これから何時間もこの蒸し風呂のような状況を耐えなければならないことを考えると、本当にうんざりする。

今は12月で、ベネズエラは北半球に位置しているから、季節でいえば冬なのだけれど、ひとくちに北半球といっても北緯9度ぐらいでは冬らしさを感じるどころか、むしろ真夏の様相である。北緯9度というのはアジアでいえば、だいたいカンボジアと同じくらいの緯度なのだ。赤道直下ほどではないにしろ、この低緯度で真夏のような季節だと文句を言うのは筋違いというものである。

なので僕は文句は言わないことにして、シートにもたれながらバスの出発を待つのであるが、これがなかなか出発しない。理由は乗客が集まらないからである。バスはアイドリングをしていて、いつでも出発できる準備が整っているけれど、バスの外では車掌らしき男が呼び込みを続けている。このあたりもなんとなく東南アジアっぽいけれど、そんなことより早く出発してほしい。出発すれば車窓から風が入ってくるだろうから。

一応、誤解のないように説明するけれど、ベネズエラの全てのバスがこういった状況なのかとういうと、そういうことは決してない。ベネズエラでも然るべき料金を支払えば、出発時間がしっかりと定められた(そしてもちろんエアコンも動いている)都市間移動バスに乗ることができる。今回僕がこのようにサウナ状態でバスの出発を延々と待たなくてはいけないハメに陥ったのは、バス会社がガソリン代を節約するためにエアコンを止めているからではなくて、ただ単に僕が乗るバスの料金が安かったためにエアコン機能の無い旧式のマイクロバスに当たっただけなのだ。バス会社がガソリン代をケチッっているわけじゃない。それはいつ出発できるかもわからないのに、バスがアイドリングを続けていることが証明している。

そう、少なくともベネズエラはガソリンに関してはケチではない。だってベネズエラは 『産油国』 だったから。



ベネズエラが産油国だということぐらいは、さすがに僕だって入国前から知っていた。ただそれはあくまで知識として知っていただけで、本当の意味でこの国が産油国であるということを実感できたのは、あるいはこのバスのおかげだったかもしれない。

車掌の努力が実って何とかバスの座席が埋まり、ようやく念願の出発 ・・・ かと思ったら、バスの内部ではバインダーに挟まれた用紙が回されてくる。見ていると乗客たちは皆そこに自分の氏名を書き込むとともに、車掌に『バスターミナル使用料金』なるものを支払っている。

この手の手数料を支払うことはこれまで旅してきた南米諸国でもよくあったけれど、大抵の場合はチケットの代金に含まれているか、もしくは乗車前に専用ブースで支払いを済ませておくパターンがほとんどだったので、なんとなく手際が悪いように感じてしまう。

車内で乗客全員が使用料を支払うと、今度は車掌がそれをバスターミナルの車両出入口にある料金所というか徴収所のような場所に納めることで、初めてバスはターミナルの外に出ることを許される。これで今度こそ本当に出発である。

バスはマラカイボ市内こそ渋滞のためにノロノロ運転だったけれど、市外に出るとクルマの数も少なくなって快調に走る。これによって車窓から風が入ってくるようになり、車内の暑さも幾分和らいでくる。「このまま最後まで快調に飛ばしてくれるといいな」と、僕はそんなふうに思っていたのだけれど、でもそうはならずに、バスはガソリンスタンドに停車する。どうやら給油するみたいである。

他の国でもこういうことはあったけれど、なぜ走り出してすぐに給油しなければならない状況になるのか、僕にはさっぱり理解できない。最初から満タンにしておけば、この暑い中でこんなふうに乗客に余計な時間をかけさせることもなくなるだろうに。

そんなわけで給油が終わるまでバスはガソリンスタンドに停車するのであるが、ここで僕はふと思いついた事があって、車外に出てみることにした。周りの乗客達は座席に着いたまま、ただじっと給油が終わるのを待っているだけである。まだ出発したばかりだし、トイレに行く必要もないのだろう。でも僕はあえて車外に出てみた。何故かというと

「産油国のガソリンってどのくらいの値段なのだろうか?」

 ということが気になったからである。








 「ちょっとこれ、本当にこの値段なの?」

 それは僕が日本語で発してしまった最初の感想である。僕は車掌がマイクロバスのガソリンタンクからノズルを引き抜き、給油が終了したのを確認してからガソリン計量機の上部に付いている給油メーターを覗いてみたのであるが、その価格にあまりに驚いたせいか、思わず日本語が出てしまったのだ。ではその価格がいったいいくらだったのかというと、なんと

 「1リッターが0.048ボリバル」

 だったのである。ボリバルというのはベネズエラの通貨、『ベネズエラ・ボリバル』のことで、政府が定める為替レートだと1米ドル=6.3ボリバルだ。そして現在の1米ドルは約120円だから、これを日本円に換算してみると

「 ガソリンが1リッターで 0円90銭 ・・・ 」

 ちょっと異常な価格である。あまりに安すぎるので僕は「このガソリン、ひょっとしたら軽油なのでは?」とも思ったのだが、でもよく考えてみたらレギュラーガソリンと軽油の価格差なんて1割ぐらいのものである。産油国なのだから安いのだろうとは思っていたけれど、でもまさかここまで安いと流石に想像の埒外である。

中東の国々を旅していて外国人旅行者と出会ったりすると、「ガソリンが水よりもずっと安くて驚いちゃうよ」などと話しているのを聞いたりすることがあるけれど、ここではもうそういうレベルのハナシじゃない。リッター1円未満なんて、日本で給油するのがバカみたいに思えてくる値段である。

「どうやらベネズエラのガソリンは世界最安みたいだな。何しろ1リッター0.9円なんて・・・」

 と、思いかけたところで、僕は重要なことを忘れていることに気が付いた。

「ちょっとまてよ、1米ドル=6.3ボリバルで計算してガソリン1リッターが0.9円ってなったけど、1米ドル=6.3ボリバルって、確か公定レートだよな? 実勢レートで計算したら、もっともっと安いんじゃ ・・・ 」

 僕は自分の最初の計算結果が、(現在のベネズエラが置かれている状況を考えると、)とても適切とは言えない条件のもとに算出されたものであったことに気が付き、ベネズエラのガソリンの実勢価格が本当はいくらなのかと再計算を始めるのと同時に、ベネズエラに入国した日の事を思い出していた。



コロンビアからベネズエラへと入国するにあたって、僕はかなり入念に旅の準備をした。この旅を始めてからベネズエラで10ヵ国目になるのだから、いまさら旅の準備も何も無いのだけれど、それでもとにかく自分の過去の旅でも例が無いくらいに周到に準備をし直した。それというのも、これまでの旅の途中で幾人かの旅行者から、ベネズエラは

 「サイキョウの国」

 だと聞かされてきたからである。僕は最初ベネズエラがサイキョウの国だと聞いて、サイキョウいうのが「最強」という意味だと思い

 「ベネズエラが最強って、どういうことなんだろう? 軍事力ならもっと強い国が他にあると思うけど。」

 などと呑気に構えていたのだけれど、ここ最近ベネズエラから出国してきた旅行者達から、その経験談を聞いていくうちに、サイキョウというのは最強のことではなくて

 「最怖」 あるいは 「最凶」

 を意味していることを理解した。最怖や最凶という単語が果たして本当に日本語に存在するのかどうかわからないけれど、でも彼等の体験談の内容を吟味していると、その単語が実に的を得た言葉だと思わず感心してしまう。

しかし感心しているだけでは済まされない。これから最怖とか最凶なんていう言葉で形容される国へ行こうというのに、何の対策もせずにそのまま入国するわけにはいけない。だから僕は事前準備をすることにしたのである。主にお金の管理について。











僕はお金について、ここまで主にクレジットカードと国際キャッシュカードを使って旅をしてきたのだが、このときの準備ではそれらのカード類ではなくて、「現金」について特に重点的に対策を行った。そしてその対策というのは、「いかにして現金を隠すか」 という事に尽きていた。

僕は100米ドル紙幣をシャンプーの容器の中、書籍の表紙とカバーの間、まだ食べていないカップラーメンの麺の隙間など、「まさかこんなところに・・・」と思ってくれるような所に隠していった。カップラーメンについては紙幣を入れた後にパッケージを再び糊付けして、「未開封」であるように装う徹底的な作業である。

靴底とかズボンの裏生地とか、一般的な旅行者がやるような、ありきたりな隠し方はしなかった。何といっても敵は「サイキョウ」、一筋縄ではいかない相手である。そんな連中を出し抜かなくてはならないのだから、普通のやり方ではダメなのだ。

それにしても必要な事とはいえ、こんな作業を続けていると、まるで偽造したニセ札を隠蔽しているかのような錯覚に陥りそうで、何だか病んでしまいそうである。しまいには100米ドル紙幣に印刷されているベンジャンミン・フランクリンが

「カップラーメンやシャンプーの中に入れるなんて随分とヒドイ扱いじゃないか。今までどおりちゃんと財布に入れておくれよ。」

 と、クレームを訴えているようにさえ思えてきたくらいである。そしてそれに対して僕は

「今キミを失うわけにはいかないんだよ。悪いけどガマンしてくれ。」

 と、言って彼をなだめていたのであるが、それは別に気休めでそう言っていたわけではなく、その時の僕の言葉に嘘は無かった。実際問題として、僕は本当に彼を失うわけにはいかなかったのだ。今のベネズエラを旅するならば。



もはや国家が破綻しても全く不思議ではない程に壊滅的なベネズエラの経済不況のそもそもの発端は、原油価格の暴落である。ベネズエラは世界最大の石油埋蔵量を誇っており、いわゆる資源大国のうちのひとつなのだが、そういった国々にありがちなケースにもれることなく、ベネズエラもまた輸出の90%以上を石油が占めるという、完全に資源頼みの経済だった。

そしてその頼みの石油の価格が世界的に暴落し、そして暴落したままの状況が続いたことで、もちろんこの国は大きな打撃を受けた。ベネズエラは石油の埋蔵量こそサウジアラビアなどの中東の国々を上回って世界1位だが、生産技術の面で劣っているためにもともと生産コストが高く、そこに原油価格の暴落が来てしまい、現在では輸出によって得られる収入が生産コストを下回ってしまい、簡単に言うと

 「輸出すればするほど赤字が増える」

 という状況なのである。こういうふうハナシを聞くと、「それなら輸出しなければよいのでは?」と思ってしまうところだが、そういうわけにもいかない。ベネズエラは食料品を含めた農産物、そして日用品の多くを輸入に頼っている。そしてモノを輸入するためには外貨が必要だから、その外貨を得るために(たとえ赤字が増えるとわかっていても)、輸出を止めることができないのである。止めたら最後、国民の食べるものが無くなってしまう。というか、モノ不足は既に現実問題になっている。

そして世界はそのような状況にあるベネズエラの将来に対して悲観的な評価を下し、市場ではベネズエラ・ボリバルの価値も劇的に下がっていった。通貨価値が下がり、そしてモノの供給が需要を大きく下回ると、やってくるのはインフレである。現在ベネズエラのインフレ率は年率で200%だとか、いや本当は400%以上だとか、とにかくすごいことになっている。

僕が7ヵ国前に滞在していたアルゼンチンではインフレ率が30%を超えて、デフォルト危機が叫ばれていたけれど、今のベネズエラの現状と比べてしまうと、(不謹慎かもしれないが)それさえも大したことないようにさえ思えてしまう。

このような状況が長く続くと、やはりアルゼンチンと同じように、ベネズエラの国民もまた自分の財産をボリバルではなく米ドルのような外貨に変えたくなるものだ。ボリバルを所持していたところで、どんどんその価値ばなくなってしまう。おまけにインフレの進行はかなりハイペースだから、ボリバルなんてそのうちに紙屑同然になってしまうんじゃないだろうか?

実際のところベネズエラの国民もボリバルではなくて外貨を手に入れようと試みている。ブラックマーケット(闇両替)を使うのが一般的な方法だけど、中にはタチの悪い奴らもいて、この連中がもう始末に負えない。アルゼンチンはまだよかった。人々は外貨を求めていたけど、少なくとも常識的な手段によってそれを入手しようとしていた。でもベネズエラはそうじゃない。一部の人間がとにかく「何でもアリ」というようなやり方で外貨を入手しようと試みているのである。

その一部の人間というのはズバリ、『警官と軍人』だ。ベネズエラでは国中どこでも事あるごとに警官や軍人が一般市民を対象にしてやたらと路上で検問を行っているのであるが、その際に相手が外貨を所持していることがわかると、例えば「外貨を所持するのは違法だから」などという荒唐無稽な様々な理由を持ち出して没収してしまうのである。そして没収された金銭は彼等の懐に入る。

ちなみにもちろんベネズエラ国内で外貨を所持するのは違法でもなんでもない。警官や軍人達はただ外貨を巻き上げるために適当な理由をでっちあげているだけである。そもそも検問だって本来は治安維持が目的のはずだが、彼等は危険物なんかまともに探していない。探しているのは外貨である。

国内での検問は一般市民を対象としたものだけど、でももしそこに外国人旅行者がいたりでもしたら、それこそ良いカモである。外国人旅行者がドルやユーロを所持しているのを想像するに難くないからだ。そうなるともう徹底的に調べ上げられる。

僕がブエノスアイレスに滞在しているときに知り合った日本人男性はベネズエラ滞在中に検問に出くわし、別室へと連れていかれ、そしてバックパックの中身を全て調べ上げられた。ところが、警官達がいくら探しても外貨が出てこないため、警官達はその男性が衣服のどこかにドルなどを隠しているのではないかと推測し、次に彼の服装検査を行った。しかしそれでも外貨が見つからなかったために、遂に彼等はその男性に対して服を脱ぐように要求した。

もちろんその男性は嫌がったが、警官達は強権を盾に彼を(公務執行妨害で逮捕するとか)脅したために拒むことができず、身体検査を受け入れざるを得なかった。彼は警官達が要求するままズボンはもちろんパンツまで脱ぐハメになり、身体検査で文字通り「一糸まとわぬ全裸」となった。警官達がそこまでしたのは下着の中に高額紙幣を隠す旅行者がいることを知っていたからだ。

しかし、結果として彼はそのときの検問で金銭的な被害を全く受けなかった。それは彼が非常に巧妙な手段で荷物の中に外貨を隠していたからである。アカの他人の前で全裸にさせられた事の精神的な被害についても、まあ彼は男性だったので大したことはなかった。

でも、もしこの外国人旅行者が女性だったりしたら、いったいどうなっていたのだろう?ベネズエラの警官なんて、男性ばかりである。警官達は女性に対しても同様のやり方で厳しく追及していくのだろうか?仮に追及するとしたら、女性はそれにどのように対処すればよいのだろう?などと思っていたら、こんなハナシを聞いた。

海外に滞在している、あるベネズエラ人女性は母国へ帰る際、なんと生理用ナプキンをかっ捌いて、そしてその中にドル札を詰め込んで、ベネズエラの故郷まで帰るのだそうだ。僕はそのハナシを聞いてとても驚くとともに

「 なるほど、確かに賢い方法だ。たとえ身体検査を受けたとしても、警官もまさか 『 そのナプキンも調べさせてもらう 』とまでは言わないだろうし ・・・」

 と、感心してもいたのだけれど、でもそこまでやらなくちゃ隠し通せないなんて、もうマトモな国とは言えないような気がする。いや、サイキョウの国なのだから普通じゃなくて当然だろと言われたら確かにそうなのかもしれないけれど、それにしても日本人のものさしで測れない国ってまだまだあるんだなって、つくづく思う。

まあ、そういう国へ行くのだから、とにかく気を付けなければならない。本当は検問を避けられれば良いのだろうけど、現実的に不可能である。僕はベネズエラ国内を公共バスで移動するつもりだけれど、警官達はそのバスルートで網を張っているから、どうしようもない。外国人旅行客が沢山いれば警官達の注意も分散されるだろうけど、残念ながら現在のような状況下にあるベネズエラを好んで旅行するような外国人は多くない。

そうなると僕にできる事は検問に遭遇するのを前提にして、それでも外貨が見つからないように賢い方法で隠しておくしかない。あいにくと僕はナプキンを所持していなかったから、シャンプー容器やカップラーメンに隠すことくらいしか思いつかなかったけれど。



ベネズエラへの入国はコロンビアからの国際バスを利用した。バスが国境の地マイカオへと到着したのは朝の4時頃。周りの乗客にならってバスを降りたところ、こんな時間だというのに幾人かの地元の男達が僕を目指して群がってくる。

ベネズエラへの入国という緊張感があったせいか僕は思わず身構えてしまったが、落ち着いてハナシを聞いてみると、彼等はマネーチェンジャーだった。バスの乗客は他にも多数いたのだが、チェンジャー達が僕を狙ってきたのは僕が一目で外国人とわかったからだろう。

コロンビアからのバスだから当然コロンビア人乗客も多くいたし、彼等だってベネズエラから見れば外国人になるけれど、チェンジャー達が一番に欲しているのは米ドルやユーロといったハードカレンシーであってコロンビア・ペソじゃない。だから彼等はまず優先的に僕に狙いを定めたのである。

僕はベネズエラ・ボリバルを全く持っていなかったから、この国境で両替するのは当初からの予定どおりなのだが、ただその前にまずコロンビアの出国手続きとベネズエラの入国手続きをしなくてはならないので、僕は彼等に待つように伝えた。









そして出入国の手続きを終えてイミグレーションから外に出てみると、「狙った獲物は逃がさない」といった様子でチェンジャー達はしっかりと僕のことを待ち構えていた。僕は彼等の中から一人を選び、1ドルがいくらになるのか尋ねてみる。するとチェンジャーが提示してきたレートはなんと、「1ドル=95ボリバル」だった。

政府が定める為替レートは 1ドル=6.3ボリバル だから、その差15倍。驚くべき差異である。これではベネズエラでクレジットカードなんて使えない。ATMでカードを使用して現地通貨を引き出すと、後に公定レートで計算されて引き落とされてしまう。

そうなってくるとベネズエラに滞在している限り、やはり外貨だけが頼りである。僕の場合は米ドルだ。このドルだけは何があっても死守しなくてはならない。この状況を見ればフランクリンだってどうして僕が彼のことをあのように扱ったのか、理解してくれると思う。

まあそれはともかく、闇両替で相手の最初の言い値をそのまま受け入れるのはナンセンスだ。できるかできないか別にして、レートを更に上げられないかとにかくチャレンンジしてみるのはいつものことである。もちろん今回も僕は交渉を持ちかける。僕はチェンジャーに対して

 1、自分が両替したい金額は100ドルであること(現状のベネズエラでは大金のはずである)
 2、そして100ドル紙幣1枚であること(少額紙幣より有利) 
 3、しかもそれが新紙幣であること(100米ドル紙幣のデザインが変更されてまだ間がなく、世界では新紙幣と旧紙幣が混在して流通していた。)

 を伝えて、キリの良い「1ドル=100ボリバル」での交換を要求した。するとチェンジャーは最初「それは無理だ」というようなことを言ったのだが、僕が「それなら他の人と交換するよ」という素振りを見せたところ、彼のほうが折れてくれることになった。

この結果、僕の100ドルは10,000ボリバルへと両替される。そしてチェンジャーはその10,000ボリバルをベネズエラの最高紙幣である100ボリバル紙幣100枚の束で僕に手渡した。他の国だと、商店等で買い物をする際に最高額紙幣を使ったりすると「お釣りが無い」とか言われる事があるので、いつもなるべく小額紙幣でもらうように頼むのだけれど、今回はさすがにそれはしなかった。

紙幣の束はとても財布には入らないので、僕は肩から下げていたサブバッグに紙幣の束をそのまま突っ込んだ。もっと小さな額の紙幣で渡されていたら(あるいはもっと多くのドルを両替していたら)、サブバッグでさえも入れるのに苦労したと思う。サブバッグの空きもそんなに余裕があるわけじゃないのだ。

なんだか入国初日から面倒なことだったけど、でもおかげで他の旅行者から事前に聞いていたベネズエラに関するハナシがどうやら真実らしいということは確認できた。ベネズエラは僕にとって10番目の南米の国になるけれど、「たぶんこれまでのようにはいかないだろうな」と、自分の気を引き締めた。



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