Round South America
 Cusco Peru



朝7時、ここのところ毎日僕は決まってこの時間に目が覚める。いや、そうじゃない。どちらかといえば、「目を覚めさせられてしまう」という表現のほうが恐らく正しい。クスコで滞在している宿のすぐ近くにはサン・クリストバルという聖人の名を冠せられた教会があって、そこが毎朝7時にかなり大きな鐘の音を鳴らすので、どうしてもその時間に目が覚めてしまうのである。








そんなふうにして起床した僕は髭を剃り、そして洗顔を済ませて宿を出ると、宿のある高台からクスコの中心であるアルマス広場を眺めることができる。今日は珍しく天気が良くて、広場もいつもより明るく見える。但し、標高3,400mに位置するクスコの天気は変化しやすい。先程まで快晴だったのに急に雨が降りだした - なんてことはしょっちゅうある。だから僕は肩から提げているバッグを開き、中に折りたたみ傘が入っていることを確認すると、満足して目的の場所へと歩き出した。



行き先はメルカド・サン・ペドロと呼ばれる中央市場、クスコで最も大きなメルカドである。ここはだいたい朝6時には既に営業を始めているのだけれど、僕が訪れるのは決まって8時頃である。その頃には地元住民だけでなく、クスコをマチュピチュ観光の基点にして滞在している外国人観光客のおかげで、内部はかなり賑わっている。








ここに観光客が多いのはこのメルカドの中にお土産店が多数入っているからである。ただ、僕の場合は彼等とは違い、ここに来る目的は朝食を摂ることだ。僕はメルカドの中を奥へ奥へと進み、いつも利用している屋台の席に着く。

注文するのはいつも決まって、「カフェ・コン・レーチェ」。カフェは英語でいうところのCoffee、コンはWith、レーチェはMilkの意味なので、簡単に訳せば「ミルク入りコーヒー」である。ただ、僕はこの飲み物を注文するたびに多少の違和感に捉われてしまう。

こちらでカフェ・コン・レーチェを注文すると、まずビールジョッキのような大きなグラスに入ったホットミルクが提供される。僕はミルク入りコーヒーというのは「コーヒーの中にミルクを入れて飲む」ものと認識していたから、最初に注文した時は相手がミルク入りコーヒーとミルクを間違えたんじゃないかと疑ってしまったけれど、実際にはそうではなく、こちらのミルク入りコーヒーは

 「ミルクの中にコーヒーを入れて飲む」

 ものなのである。テーブルの上にはコーヒーが入った小瓶が置かれてあり、ホットミルクに自分で自由にコーヒーを入れて味を調節し、自分好みのカフェ・コン・レーチェにする(客によっては砂糖も入れる)。何回か通ってみて、このやり方がペルー流だというのは頭で理解しているのだけれど、ホットミルクが入ったジョッキを見るたびに、「これやっぱりどう考えてもミルク入りコーヒーじゃなくて、コーヒー入りミルクだよな。」と、思ってしまうのである。











そのカフェ・コン・レーチェと一緒にパンをひとつだけ食べるのが僕の毎日の朝食である。パンは切り込みが水平に入っていて、そこにバターを塗りこんで食べるのだが、何だか乳製品ばっかりである。特にカフェ・コン・レーチェはミルクの量が多いので、飲むのに時間がかかる。だから僕は暇つぶしも兼ねて屋台の店主であるオバサンとスペイン語を使って会話する。

 「 Hay muchos turistas aqui. 」
  (ここは観光客でいっぱいだね)

 「 En Peru estamos en verano, pero en Japon estan en invierno. 」
  (今ペルーは夏だけど、日本は冬なんだよ。)

 なんていう初級レベルのスペイン語会話だけれど、独学で勉強中の僕にとって、沢山会話をすることが何よりの練習になる。練習相手をさせられる店主の女性もきちんと返答してくれる。カフェを飲みながらかなり長く屋台に座っていたけれど、嫌な顔をされることもない。周りの屋台を見てみると、地元客もここではわりと長居しているみたいだ。

僕はこの屋台で1時間ほど過ごしてから席を立つ。ちなみに料金はカフェ・コン・レーチェとパンで合計3ソル(ソルはペルーの通貨単位)。日本円に換算しておよそ100円だ。まあ、高くもなければ安くもないといったところである。



朝食の後は日課の散歩だ。クスコの中心に位置するヒストリカ(歴史地区)を気ままに歩く。平日の午前中だが、路上では小学生くらいの子供達が縄跳びをしたり、ボールを蹴って遊んでいるのをよく見かける。こちらでは学校の数が不足していて一度に全ての生徒に授業を受けさせることが出来ないので、授業は午前と午後の二交代制となっている。だから午後の授業に出る子供達は午前中に遊ぶのである。








歴史地区のそのまた中心、アルマス広場まで来ると観光客の数はいっそう多くなる。ここの周りには博物館や教会といった見所のほかにマチュピチュ・ツアーを手配してくれる旅行会社やマクドナルドやスターバックスといった外国人向けの飲食店が多いからだ。

もちろん地元の人達も大勢いる。彼等は広場のベンチに腰掛けて煙草を吸ったり、友人と談笑したりしている。そしてそれらの人達に声を掛ける靴磨きや物売り。僕はこの物売りからよく煙草を買う。買うのは大抵「インカ」という銘柄のタバコである。とりたてて美味しいわけではないのだが、この国以外では恐らく買えないと思うと、ついインカを選んでしまうのである。



アルマス広場で一服した後、また散歩の続きをする。そして大通りを歩いていると、何かのパレードに出くわした。それもけっこう大がかりなパレードである。見ると聖者(殉教者かもしれない)の像を載せた多数の神輿(みこし)を担いだ行列が通りを行進している。おそらくはキリスト教に関係した催しなのだろう。








パレードしている人達の様子を見ていると、みんな神妙な顔つきで行進していることがわかる。ただ僕はクリスチャンではないので、このパレードがどのような趣旨で行われているのかさっぱり理解できておらず、そのため彼等がどうしてあのように真剣な面持ちで行進しているのかもわからない。

僕がペルーのキリスト教について持ち合わせている知識といえば、情けないことにそれがカソリックであるということくらいだ。それにしても祝日でもないのにこのようなパレードを行うなんて変わった国だな、と僕はそんなことを思いながら、いったん宿へと戻った。



宿へ帰った僕は洗濯をしたりシャワーを浴びたりと(夏なのに朝晩はかなり冷え込むので、僕は昼間にシャワーを浴びるようにしていた。)、細々した用事を済ませた後、午後一時くらいに再び外出する。行き先はタンカルパタ地区というところだ。

その地区はクスコの中心部からは離れていて、市内バスに乗ったり歩いたりと、なんだかんだかと僕が滞在している宿がある歴史地区からは小1時間くらいかかるのだが、どうして僕がそのような場所に行くのかというと、実は僕はその地区にあるボランティア施設で週に5回、半日だけそこで活動しているのである。

そしてその活動が始まるのが午後の3時から。だから2時くらいに歴史地区を出れば間に合うのだけれど、僕がそれよりも早く宿を出るのは施設に向かう途中で昼食を摂るようにしているからである。ちなみに食事をする場所はやはりメルカドだ。ただ、いつもメルカド・サン・ペドロ(中央市場)で食事を済ませてしまうのはつまらないので、昼食は違う場所にする。

クスコにはメルカド・サン・ペドロ以外にも幾つかの市場がある。歴史地区から歩き出し、散歩がてらにテクテクと歩き続け、しまいには観光ガイドブックに掲載されているクスコの地図の域外くらいまで歩くと、中央市場とは大きく趣が異なるメルカドが幾つかある。







それらは中央市場のようなメルカドに比べると規模はずっと小さくて、良くいえば「こじんまりとしている」、悪くいえば「ショボイ」という表現が妥当なところなのだが、そのおかげで観光客は全くいない。メルカドに入っている商店もお土産屋ではなく、日々の食材や生活用品を扱っている店ばかりである。

ただしそんな小さなメルカドでも食堂は数件入っていて、そして他のメルカドの食堂と同じように、大抵の場合地元のオバチャン達が店を切り盛りしている。僕がいつも利用する時間帯は一般的なランチタイムからは少しばかり遅いので、空いていることが多い。

僕は幾つかある食堂の中のひとつを選び、「さて、何を注文しようか。」と、考える。中央市場のような大きなメルカドの定食屋だとメニューがあるが、ここにはそんなものはなく、また僕もまだそんなに多くのペルー料理を知っているわけではないので、大抵の場合、「ロモ・サルタード」という料理を注文してしまう。








「ロモ・サルタード」は白飯の上に肉野菜炒めをかけてフライドポテトを添えた、いわゆるぶっかけ料理である。これはペルー料理の中でも定番中の定番で、どこの定食屋でもだいたい扱っているから、初めての店で困ったときにはついこの料理を注文してしまう。

でも定番料理だけあって、これがなかなか美味しいし、日本人の口にも合っていると思う。実際僕はペルー滞在中に本当にこの料理をよく食べた。ただそれでも、毎日食べ続けていると流石に飽きてくるので、そうなるとやはり他の料理を注文したくなる。

ペルー料理にそれほど詳しくはない僕だけど、同じ食堂に何回か通って店のオバチャン達と顔見知りになると、調理場の鍋の中を見せてくれるようになるので、僕は料理の見た目で判断し、まだ食べたことのない料理にトライしたりもする。

ちなみにロモサルタードの料金は4ソル(110円)と、けっこう安いと思う。そもそもペルーでは食費があまりかからない。マクドナルドのようなファストフード店で食事(ハンバーガー + ポテト + ドリンク)をしたりすると最低でも15ソル(520円)はするけど、こういうのは特殊なケースで、メルカドや大衆食堂を利用している限りはバックパッカーの視点で考えても、ペルーの食事はやはり安いと思う。

さて、こうして昼食をとり終え、お腹も膨れたところで僕はメルカドを出る。そしてボランティア施設のある地区へと走る乗り合いバスに乗車するためにメルカド近くにある停留所へと向かう。これが毎日繰り返される僕のクスコでの半日の流れである。


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